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日本でカレーライスが生まれた頃

『カレーライスと日本人』(森枝卓士・講談社学術文庫・2015)読了。

2015年に学術文庫版が出て、2018年8月で第3刷。原本は1989年に講談社現代新書として誕生している。

本書のテーマは、カレーライスはどこから生まれたのか?

そして、その答え探しの旅が本書の内容となっている。

カレーライス・・・日本人の国民食といっていい(のか?)程、親しまれている料理は、一体いつ頃、どこから生まれたのか?

しっかりした調査を続けた旅であったが、資料や物証等が少ない、はっきりと断定した答えは出ていない。しかし、ほぼ間違いないだろうという推測の土台までは提供してくれている。その意味で本書は古典として、残っていくだろう価値がある。

カレーといえば、当然にその出自は、インドが思いつく。しかし、インドにカレーはない。というか、カレーはあるけど、インド料理全般がカレーといえばカレーにあたる。日本のカレーライス(いわゆる小麦粉の入ったドロっとしたカレールーと肉、ニンジン、タマネギ、ジャガイモという具のセット)とは、系統が違う食べ物である。そもそもインドでのカレーは、スパイスの調合から始める料理で、カレー粉やカレールウというものはないし、使わない。というわけで、インド発祥説は消える。

インドでなければ・・・で、次に来るのが、欧風カレーなんて言われるイギリスルーツ説を確かめている。確かにカレー粉が最初に生まれたのはイギリスであった。しかし、著者の調べが進むうちに、カレーライスのイギリス発祥説もあやしくなってくる。カレー粉を初めて作り売っていたと記録にあるC&Bにとって、カレー粉は、数多くある製品群の一つに過ぎず、イギリスでの国民食を支える存在ではなかったこと。カレーはあるにはあったが、それはかつての生活様式として1週間分の肉を焼いて、1週間かけて食べていく中で、時間経った肉の食べ方だった。主役は肉であり、カレーは肉を食べるためのソースに過ぎなかった。そして、ここでも具としてのニンジン、タマネギ、ジャガイモという組み合わせは出てこない。イギリスだけでなく、フランス、ドイツにもカレーライスの原型になるカレー料理はなかった。

カレーのルーツを巡る旅はインド、イギリスでは確証は得られず、日本での文献調査という振り出しに戻る。明治維新、文明開化の時を経て、肉食は大体的にOKになった。料理としては、外食としての牛鍋が中心で、明治の段階でもカレーライスはまだポピュラーになっていない。しかし、カレーライスの原型は徐々に姿をあらわしてきており、最初期は、まさかのカエル肉を使ったカエルカレーだった。カエル肉は中華系の流れにあり、欧米勢の進出にともない調理人としてきていた中国人たちからの影響だったと考えられる。もう一つ、この時代には、まだニンジン、タマネギ、ジャガイモが、外来の珍しい野菜という扱いだったこと。

食べ物の受容は、1:外食を通じて、2:雑誌や書籍のレシピ紹介などを通じてという流れのあと、3:家庭での調理という形で入ってくる。明治の段階では、まだ1と2の段階であった。

そして、結論としては、カレーライスがひろく普及するのは、大正時代であった。一つ大きな変化として、牛肉のカレーでなく、(当然カエル肉でもなく)豚肉を使うカレーが出てきたことが家庭料理にまでおりてくる要因となったようである。豚肉はトンカツやコロッケという料理を通じておいしい肉として家庭料理に普及していった。またシチュ料理からカレー粉を使う形での転換でカレーになっていったと思われる。

そして大正時代の普及化の波の次に来るのが、戦後である。軍隊での経験を通じて、あるいは学校での寮での経験を通じて、洋食やカレーライスを食べた農村部の人達が、地元に戻ってからもカレーライスを家族とともに食べていくという流れが、国民食的な普及につながっていった。

カレーライス・・・今では当たり前に食卓に登場する料理であるが、その出発はそんなに古くない大正であったことを学べたことは、自分にとって大きな成果である。案外古くないカレーライス。

目次
1:    辛くないカレーと黄色くないカレー
2:   インドでカレーを考えた
3:   カレー粉誕生
4:   日本カレー繁盛物語
5:   日本人はなぜカレーが好きなのか
補遺:その後の「カレー考」